私が実家で暮らしていた頃、夏は蚊帳の中で寝ていた。
今思うと、あれはなかなかいいものだった。
布団に寝て上を見ると、
緑の蚊帳がたわんで目の前にぶら下がっていた。
それがそれほど目障りではなく、心安らぐ感じだった。
あの緑の網の目がよかったのか。
寝ていてちょっと暑いと、蚊帳の裾を足で触ったりした。
そのひんやりした感触がよかった。
子どもの頃、蚊帳に顔をつけて寝てたりすると、
よだれで蚊帳の緑の染料がほっぺたについていたりした。
蚊帳を吊るのは私の役目だった。
部屋の四隅には蚊帳を吊る紐があって、
それで蚊帳の金属の輪っかを結わいた。
紐に5センチほどの篠竹がついているものもあり、
その篠竹を輪っかに引っかけて吊る。
こっちのほうが簡単だった。
蚊帳はたたむのがやっかいだった。
子どもではひとりでたたむのが難しい。
でも慣れればそんなに難しいものではない。
四隅の蚊帳を吊る輪っかを持って、
前に蚊帳を流しながらけっこうたたんだものだ。
その頃の私の実家では、夏は雨戸は閉めなかった。
だから、寝ていて廊下の向こうに外が見えた。
煙草を栽培していたので、夏の夜は両親が交代で、
煙草の乾燥小屋の石炭の火を燃やし続けていた。
乾燥小屋の明かりが一晩中ついていた。
そんなのを蚊帳の中からぼんやり眺めながら寝た。
捕ってきた蛍を麦わらの蛍籠から出して、
蚊帳の中に放した。
たわんだ蚊帳に蛍がとまって光っているのを、
見ているのが好きだった。
蛍にとっては迷惑なことだったろうな。