4時50分にケータイのアラームがなった。
そうだ清水哲男さんの高田渡の追悼番組だ。
昨夜、番組を録音するためにタイマーセットしたら、
TOKYO FM が私の家では受信できないことが判明。
愕然とした。最近聴いてないけど、
うちでは聴けるとなんの疑いも持たなかった。
高校生のころ茨城で、FM東京だったときの
城達矢の「ジェットストリーム」をよく聴いていた。
私はジーパンをはき、包帯で固定した右肩に気遣いながら
ジャンパーを羽織った。
たしかカーラジオではTOKYO FM が聴けたはずだ。
最近車で聴くFMは、NACK5だ。昔のFM埼玉かな?
ボタンを押し間違えてTOKYO FM を聴いたことがあった。
外に出ると肌寒かった。近くの自販機で缶コーヒーを買う。
暖かいのが欲しかったが、自販機は全部夏仕様になっていた。
しかたなしに冷たい缶コーヒーを買って車に乗る。
エンジンをかけラジオをつけてTOKYO FM に合わせる。
ヒーターも弱めに入れた。ちょうど番組は始まった。
素敵な女性の声が聴こえてきた。
そしてやさしい男性の声。あ…、これが清水哲男さんか。
なんかへんですね。何年前からかメールをいただいたり、
九想庵の掲示板に書き込んでもらっているひとの声を
初めてラジオで聴くというのは。
私は駐車場から車を出し道路に出た。
さすがに車が少ない。
西武ドームや多摩湖の方に行こうと思った。
不本意な冷たい缶コーヒーを飲み、私はタバコをくわえた。
清水さんが高田渡との出会いのことを話した。
吉祥寺あたりの街角で自転車に乗った彼と会ったことや
スタジオや居酒屋での彼のこと。
最初に「自衛隊に入ろう」が流れた。
この歌はほんとうの高田渡ではないと思う。
次の歌が高田渡らしい、と清水さんはいった。
「失業手当」だった。
私は高校生のとき「自衛隊に入ろう」を聴いて、
面白い歌をつくるひとがいるもんだな、と思った。
たしかそのとき、ガットギターを弾いていた。
フォークギターじゃなかったことが印象的だった。
それから高田渡にはまっていった。
私の生活のリズムに合うような気がした。
それからいくつか曲が流れた。
下山口の西武ドームに行く交差点を曲がったころ、
「自転車に乗って」がかかった。
そのとき突然涙が流れた。
しばらくすると涙でかすんだ西武ドームが見えた。
西武ドームでは昨夜、ソフトバンク戦があった。
うちの施設の子たちも招待券で来ていたはずだ。
昨日はそれなりの人出はあったのだろうが、
そのときはまったく人はいなかった。
ゴミ一つないきれいな球場前だった。
多摩湖に出る。どういうことなのか最近水が少ない。
湖底が現れ、葦の生えているのが見える。
それから何曲か流れた。
山之口貘などの現代詩人の詩に曲をつけた歌だ。
このへんが高田渡のタカダワタル的なところだろう。
多摩湖を突き抜け、小さな街並みをまわって戻る。
西武ドームに戻ったころ、
清水さんが私のことを話し始めた。
「ネットで知り合った九想さんというひとが、
高田渡を『私の神様だ』といっている」
私はおもはゆい気持ちになった。
そして「コーヒーブルース」が流れた。
小手指あたりに来たころ、また私の話になった。
ブロックヘッズでのライブのことだ。
それから2、3曲あって番組は終わった。
私の早朝ドライブも終わった。
ちょっとこすぐったい幸せなドライブだった。